自分の力を試したい-指揮者 水野蒼生(Part.4)

跳ねる柑橘(@hoppingnaranca)です。
クラシック音楽家インタビュー、第一弾の水野蒼生さん(@aoi_muzica)。
全4回の最終回、Part.4です。
最後となる今回は、水野さん個人について聞いてみました。

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ーー数種類の団体をこなしつつザルツブルクの音大生でもある水野さん。彼の今後の予定を聞いてみた。

水野
(2017年)10月から4年生で、来年の6月に学部は卒業予定です。6月の卒業公演に正式に出た後はどうなるかわからないですが、奨学金次第では院に進む予定でいます。同じところか、べつでもいいかなと。自分の力試しのために受験するのもありかなと思ってます。

ーー指揮者は音楽の世界に入るとき楽器から入るイメージがある。水野さんはこれまでどんな楽器をやってきたんでしょう。

水野
ピアノを5歳からやっているのと、12歳でヴァイオリンをもらったのがきっかけでヴァイオリンをはじめました。それと同時期に吹奏楽部に勧誘されて部でフルートをはじめて、それから中2のときバンドを組んでベースをはじめて。あと高校からは歌をやりました。高2でオペラミュージカルって授業があったんです。文化祭に向けてオペラを一曲上演するっていう。日本語なんですが、モーツァルトの魔笛をやってアリア歌ったりとか。高校卒業後は歌の仕事を何回かやって。ギターはコードは押さえられるくらい。それに指揮ですね。

自分の中ではベースの経験が大きいです。それまでは上物楽器ばっかりだったけど、ベースという低音楽器が加わったのは結果として自分の音楽観にプラスだった。コントラバスとエレキベースのチューニングは一緒で、だからオケ相手でも理解できることがあって、それがよかったです。ベースってかっこいいですよね。それと同じでチェロとコントラバスがガリガリ弾いてるの好き。低音重視のところがあるかもしれないです。

色んな楽器を経験してきたっていうのは(指揮をするうえで)大きいけど、その中でフルートは3年間しかやってない。なので管楽器のことは、今後もっとケアしてあげられるようになりたいです。弦楽器に言える技術的な事が管楽器にはできない歯がゆさがいまはあるので。
自分は器用貧乏なところがあるから、ある程度触ったらそこそこ弾けるけど、そこから突き抜けないみたいなところがありました。その中で指揮がとびぬけたかなっていう感じです。
いまは大学でピアノを一番やらされてますね。オペラの弾き歌いとか。コレペティって言うんですけど、これが一番しんどい。そんなのをやってます。

【著者注】コレペティトゥール:オペラのオケパートをピアノで弾きながら全パートを歌うもの

--ジャンルを問わず色んな楽器を経験してきた水野さん。各楽器の好きなところも聞いてみた。

水野
ピアノは完璧にソロで弾くもので、一番面白いのはその人間くささですね。一人の人間だけで音楽を作れるわけで、その人だけのエッセンスで音楽が作れる。それってすごくクセがあることだし、その人間性が出るところ、人間くささが好きです。
ヴァイオリンの魅力は音を直接作るってところですかね。ピアノは鍵盤を触れば楽器の中で機構がカタカタって動いて、ポーンって音が出るじゃないですか。でもヴァイオリンは自分で弦を弓でこすらせて発音するところから、どんな音色を作るかまで自分でやるじゃないですか。同時にこっち(左手)で音程をとるっていう。そのイチから自分で音を作っているんだっていう感触が楽しいです。あとは単純に利便性ですね。なんでもいける万能性。オケもソロも室内楽も、なんだってやるぜってところが好きですね。

フルートはどうだろう、自分は吹奏楽の中で吹いていたからあまりソロとかは正直わかってないんだけど、単純に音が好きですね。めちゃめちゃ音が好きで、あとはオケの中でフルートは当たり前な楽器と言えばそうだけど、やはりあの音色が来ると自分の中ですごく落ち着きます。全然触ってないから大したことが言えないけど(笑)
ベースは単純に楽しいです。笑 あれでソロ楽器になり得るところも好きですね。ロックとかバンドの曲を聴いてると、いつもベースラインばっかりおってるんですよ。極端な話ボーカル全然聞かずにベース聴いてることもあります。

--自分もドラムばっかり追っていたり、リズム隊に集中することがあります。

水野
わかります。そういうのがすごい楽しいですね。でもドラムは叩けないんですよね~。だって手足4つ全部バラバラに動かしてて、「なんでできるの!?」ってなります。ドラマーはバンドの中の指揮者って言われることがあって、ドラムなしじゃバンド音楽は成り立たないから。とりあえずアウフタクトとか出せばみんな鳴るっていうのもあって。
…それでも一番かっこいいのはベースですけどね(笑) 

--話を指揮に戻すと、指揮者って檀上のディレクター、監督、総責任者ってかんじですよね。さらに水野さんの考えではそこにプロデューサー要素も加わるわけですが。

水野
全ての楽器のことがわかっていて、かつ作曲の仕方もわかってないといけない。それらがわからないと曲を解釈できない。作曲するのは大事で、技法じゃなくて、作曲することの大変さがわからないといけない。

--曲を作り出すことの大変さ、どこが大変かっていうことがわからないといけないということ?

水野
そうそう、作曲家が曲を作り出すなかでどこに苦しんだかがわかると共感できる。実は趣味で打ち込みの音楽を作ることが多いんですけど、作曲と通ずるものがあると思っています。どういう音量バランスにして、ミックスすればどう響くのか。
指揮者ってエンジニア性もあって、ざっくりいうと”超アナログなPA”みたいなかんじです。フルート下げて、チェロ上げる、みたいなことをやってるんですよ。奏者1人が1トラックだとして、50数トラックを調整するような感じ。だから打ち込みの音楽いじってる経験も役に立っていて、ここを上げるとこっちが聴こえづらくなるとか、そういうことができて結果がわかる。電子音楽のそういうところは凄い面白いです。

--アナログなPAって表現面白いですね。

水野
でもそんな感じしません?だから指揮者ってディレクターと、PAを合わせたみたいなかんじですかね。

©Keisuke Mitsumoto
--いまはザルツブルクのモーツァルテウム大学にいるわけですが、大学院進学に際して他に行くとしたら進学先を決める際に条件とかはあるんですか?

水野
お金とかそういう面を抜きにしたら、アメリカっていうのは興味があります。単純に、アメリカはまだ何も知らない場所だからというのがある。ヨーロッパとアメリカのクラシック文化って全然違う。どんな先生がいるとか環境とかは全然知らないけど、そういう違う発展の仕方をしたクラシックを見たいなっていう意味で。NYとか行ってみたいです。
あとは自分への挑戦として、英語ドイツ語でやってるんですが、それが通じない場所。フランスやイタリアですかね、そこで自分の力を試したいっていうのがある。どっちも英語すら聴いてくれなさそうな国で。
田舎にいっちゃうと絶対英語通じないだろうな。イタリアもシチリアとかパレルモとかにいっちゃうと絶対通じないですね。そういうところに行っちゃうのも、自分の人生的には面白いかなって思います。

--誰かに師事したいとかはあるんですか?

水野
好きな指揮者はいるけどその人が弟子をとってるか、大学で教えてるかどうかですよね。そういう意味でいまの師匠に満足してて、不愛想だけど。的確だし、いまの環境も指揮を学ぶ上で悪くないし、楽しくやれてるので。どこも行かずザルツのままってのもある。
ただ、町が小さい。田舎ってのがしんどいです。出会う人がみんな音楽家でそれ以外に会わない。これがベルリンとか大都市だったらありとあらゆる職業の人と会えたのにって。町ちょっと出歩いたら、色んな大学があって色んな人がいるから。でもザルツブルクは困ったことに会う人ほとんどが音楽家。大学から歩いて5分っていうせいもあるけど。そうなるともう音楽家飽きちゃう。

だから東京では音楽家以外の人と会いたくて、滞在中はいろいろな人に会いに行ってます。音楽やってたら同じ畑の人脈は勝手にいくらでもできていくから。そうじゃない人が貴重だなと思ってます。そうじゃない人とのつながりの可能性ってもっとあるなと思っていて。音楽家同士で、あなたピアニスト私ヴァイオリニストだとしたらDuoしようで終わっちゃうけど、映画監督と指揮者だったら「何ができるだろう!?」って、画家だったら「油絵と指揮者でなにする!?」って面白さがある。そういう出会いのほうが面白いし、もっと欲しい。
そこで仕事につながるかどうかはどうでもよくて、違う仕事の話を聞くのは面白いし、客観的に指揮者がどういうものかこの交流で見えてくる。それが楽しいです。
この(2017年の)夏はO.E.T関係でも、O.E.Tのクラファンでも違ったジャンルの人やアーティストが目をつけてくれて、新しい出会いがあったりしたので、本当に予想以上の結果を得られたかなと思います。やって間違いだったってことは何一つなかったですね。

音大生としてのキャリアも、音楽活動の手法も型破り。だけどイロモノ狙いや新しいものに飛びついているわけではなく、芯になるのはクラシック、そして音楽へのリスペクト。この確固たる芯がある限り、彼の音楽はクラシックへと続く扉をより広く、より多くの人に開きつづけるだろう。

Text by:跳ねる柑橘(@hoppingnaranca

 


さて、4回にわたる長いインタビューを受けてくださった水野さん。彼が主宰するオーケストラ「Orchestra Ensemble Tokyo」通称O.E.Tは、スピンオフという形でこの2月に室内楽のイベントを行う。テーマは「革命前夜」だ。

フライヤーデザイン:野口勝央(@nm_ngc

会場のサローネ・フォンタナ成城は落ち着いた雰囲気の場所。
こういったサロンでひらかれるサロンコンサートは、1人~数人編成で行われ、奏者の息遣いまでわかるような近距離で音楽を感じられるのが魅力。壮大なオーケストラとは異なる音楽の楽しみ方だ。

私は比較的このサロンコンサートを楽しむのが好きだ。奏者の息遣い、舞台の板が軋む音や踏み込む足音、それらも含めて一つの作品となる。より音楽が生き物のように、目の前の人間が奏でていると感じられるからだ。なにより弾いている姿を近くで観られるというのが楽しい。

O.E.Tが今回行うサロンコンサートの編成はヴァイオリン3人、チェロ、ピアノの5人。演奏する楽曲はワーグナー、ドビュッシー、コルンゴルトという19世紀後半、20世紀前半という激動の時代を生き、その後の時代の音楽に影響を与えた音楽家たちの作品だ。まさに「革命前夜」を彩った音楽たちを聴くことができる。

興味がある方は、
O.E.TのTwitter(@o_e_tokyo
O.E.T公式ホームページ
にDM、問い合わせをどうぞ。

Text by:跳ねる柑橘(@hoppingnaranca